『Edv Path』で拓く新たな教育のスタンダード
Edv Future株式会社
学校教育が大きな転換期を迎えている。学習指導要領の改訂により、これまで以上に“生きる力”の育成に重点が置かれるようになった。そうした中、Edv Future(エデュ フューチャー)株式会社は学力テストでは測れない『非認知能力』の見える化による“生きる力”の育成という解決策を示している。そこで、同社取締役COOを務める橋本竜平氏に、新たな時代の教育のスタンダード構築に向けた同社の取り組みを聞いた。
目標は“自ら意思決定できる人”を増やすこと
Edv Futureは2019年12月に山崎泰正氏によって設立された。「人口減少や少子高齢化が進む中、日本社会は一人当たりの労働生産性を高めていくことが求められる。そのためには、自ら考えて意思決定できる人材育成のための教育が必要となる」という思いから、起業に至ったという。なお、社名のEdvは、教育(Education)にイノベーション(Innovation)を起こしたいという思いから『u』を『v』に変えている。ここにも新たな教育の構築に向けた強い意志が表れている。
同社でCOOを務める橋本氏は、「当社には山崎代表や私をはじめ、人材業界出身のメンバーが多く在籍しています。人材会社で多くの人と接する中で、学歴や偏差値では測れないコミュニケーション能力や協調性、責任感といった“非認知能力”に着目し、中高生のうちからそうした能力を身に付けるための教育システムの提供を通して、教育の新たなスタンダードを構築したいと考えています」とビジョンを語る。
“非認知能力”とは、テストでは測定できない内面的なスキルのこと。改訂された学習指導要領では、新しい時代に必要となる“生きる力”を育むことを目的に『知識・技能』『学びに向かう力・人間性等』『思考力・判断力・表現力等』の育成を進めることとしているが、このうち知識・技能を除く2つがこの“非認知能力”に当たる。
「社会に出た後は、学力よりも“非認知能力”が重視される傾向となってきています。中高生という早い段階から育成を行うことで、ただ教えられたことを実行するのではなく、自ら課題を認識して解決策を考えるといった力を磨くことができます。また、大学においても学力だけでなく、学びに対する意欲や志望動機を適切に示す表現力などを評価する総合選抜方式を導入する学校が増えています」(橋本氏)と“非認知能力”に対する社会的な認知の広がりを指摘している。
『総合的な探究の時間』の導入が追い風に
Edv Futureの事業の中核を担うのは、2021年4月にリリースした成長型支援サービス『Edv Path』(エデュパス)だ。 「Edv Pathは、アセスメントと呼ぶアンケート調査を通して生徒一人ひとりの非認知能力を測定、分析してレポートを作成することで見える化します。これにより、生徒にとっては自らの特性や成長の把握が可能となり、先生にとっては生徒の成長支援のための最適なカリキュラムの作成やコーチングに活用することができます。また、データを蓄積して比較分析することで、非認知能力の成長度や能力に影響を与える因子分析なども可能となります」(橋本氏)
同社では、設立当初から学校教育向けの非認知能力育成支援サービスの開発を進めてきたが、学習指導要領の改定に伴い2022年度から高校の授業に導入された『総合的な探究の時間』(以下、『総合的探究』)が追い風となり、Edv Pathのサービス提供を開始。3年目を迎えるが、導入件数は毎年度3~4倍に拡大するなど、高い関心を集めている。
『総合的探究』とは、生徒一人ひとりが自らの興味・関心や社会的な課題などからテーマを設定し、そのテーマに関する問題点や改善点、さらには改善策などを自分の考える方法で調査・分析するというもの。具体的な取り組み手法は学校ごとに異なるが、学びに対する生徒の意欲や自主性、思考力、計画力など、“生きる力”=“非認知能力”を育む取り組みとして注目されている。
一方、生徒ごとにテーマやアウトプットが異なるため、指導する先生の負担は大きくなる。さらに、これまでの学校教育では明確な指標が定まっていない非認知能力の育成が主題となっているため、対応に苦慮している学校も少なくない。
こうした状況について橋本氏は、「生徒の探究を指導するには、先生自身も『総合的探究』のあり方や進め方について探究しなければなりません。これまでも業務負荷の大きさが課題とされてきた学校の先生にとっては、さらなる負担になるのではないかとの懸念もあります。Edv Pathは、生徒の非認知能力を示す指標となるうえ、取り組みの進捗とともにそれらの能力の変化も可視化することができるので、適切な指導支援と先生の負荷軽減という観点からも意義があるのではないかと考えています」とサービス導入のメリットを示唆している。
中学校や高校の先生は、1クラス30人以上の生徒を担当するケースが多い。しかし、一般的に企業活動における管理者1人当たりの部下の人数は、5~8名程度が理想とされていることからも、すべての生徒を詳細な部分まで把握することは難しい。そこで、Edv Pathによって生徒の状態やこれまでの変化などのデータを“見える化“することで、指導する先生の負荷軽減も期待される。
非認知能力の見える化で個別最適なコーチングを
Edv Pathでは、アセスメントを通して生徒の非認知能力を測定する。その結果は、感情をコントロールして応用する能力『SEL/EQ』と物事をやり抜く力『GRIT』を軸に、自己理解、社会/他社理解、責任ある意思決定、セルフマネジメント、対人関係スキル、度胸、復元力、自発性、執念の9つの基本項目などで見える化する。さらに、ニーズに応じて自己肯定感や心理的安全性などのオプション項目を加えたカスタマイズも可能という。分析結果は、コンピテンシーレポートに取りまとめられ、何が強みで何を重点的に育成していくかなどの方針決定に活用できる。
「多感な時期にある中高生なので、その時の状況や環境、感情によっても変化が生じます。そのため、レポートを見る際はポイントの増減だけでなく、どのような変化が生じているかが重要となります。特にイベントやプロジェクトの前後では変化が生じやすいので、どういった事象がどの項目に影響するかといった分析を行うことで、より適切なコーチングが可能になります。そうした面から、“生きる力”の育成には生徒だけでなく先生の“探究”も大切になります」(橋本氏)
さらに、「非認知能力の評価は、評価する先生のキャリアや経験、能力、考え方などによってどうしても偏りが出てしまいます。また、毎年同じ生徒を担当するわけでもないので、3年間の経過を見て判断することも難しくなりますが、Edv Pathはデータを蓄積して比較できるので、そうした部分も補完できると考えています。
また、Edv Pathのレポートは、生徒と先生、保護者を結ぶ“共通言語”とも言える存在です。従来は生活態度や行事などにどう取り組んだかといった、やや抽象的な情報しか共有できませんでしたが、コンピテンシーレポートを面談資料として活用すれば、生徒の資質や現在の状況を保護者とも共有でき、学校と家庭のより効果的な連携による個別最適なコーチングが可能になると考えています」(橋本氏)としており、学校教育と家庭教育の相互補完による“生きる力”の育成が期待される。
そのほか、コーチングプランの提示など測定後のフォローも実施している。「アセスメント結果を用いた教員研修などを通じて、結果分析の考え方に関する指導やコーチングプランの提示なども行っています。学校からの委託業務として我々が分析や指導を行うこともできますが、それでは持続可能な教育にはつながりません。実際に日々の授業や生活を通して生徒と接している先生たちが生徒の特性や非認知能力を把握し、適切な分析とコーチングを行う文化を醸成する。それが本当に意味のある非認知能力の継続的な育成につながっていくと考えています」(橋本氏)と持続可能性な教育支援にも言及している。
学校や家庭と連携しながら、自ら考えて意思決定できる人材育成を加速させていく。Edv Futureではその目標の達成に向けて、非認知能力を育む教育支援サービスによる新たな教育のスタンダード構築を進めている。