昆虫の活用で自然の仕組みを生かした肥料・飼料を
株式会社ムスカ
異常気象や為替相場、国際情勢などを背景に食料品の高騰が続いている。影響は輸入だけでなく、肥料や飼料の高騰により国産の農畜産業も打撃を受けている。こうした中、昆虫を活用した独自の循環型システムにより有機肥料と飼料原料(タンパク質)の生産を目指しているのが株式会社ムスカだ。為替や流通動向に左右されない持続可能な食のインフラ構築を目指す同社代表取締役の串間充崇氏に今後の展開などを聞いた。
選び抜かれたスーパーイエバエが実現するリサイクル
農林水産省の発表によると、2021年度の日本の食料自給率は38%、飼料自給率は25%、さらに肥料原料に至っては、ほぼ全てを海外に依存している。こうした現状について串間代表は、「農業など1次産業のあり方が今のままでいいとは、誰も思っていないのではないでしょうか。食料安全保障の観点からも、農薬や化学肥料、畜産排せつ物などによる土壌・地下水汚染など環境の観点からも様々な待ったなしの課題を抱えています。今こそ、覚悟を決めて抜本的な変革を進めていかなければならないと感じています」と警鐘を鳴らす。
食料の確保は日本だけでなく、世界共通の課題だ。その対策の一つとして欧米では昆虫の食品利用が始まっている。日本においてもここ数年で昆虫活用の検討が進められており、一部の航空会社では機内食への導入なども発表している。
株式会社ムスカの技術は、昆虫食ではなく『間接的昆虫食』と呼ばれる。家畜排せつ物などの有機性廃棄物をイエバエの幼虫が食べて処理するというシンプルなもの。大きくなった幼虫は飼料となり、幼虫の処理物は有機肥料となる。「自然界で行われている循環を効率的にできるよう工業化したのがムスカのリサイクルシステムです。有機性廃棄物を食べた幼虫が飼料となり、それを食べた動物から出る有機性廃棄物をまた幼虫が食べる。環境に負荷をかけることなく、価格が高騰している肥料原料や飼料をリサイクルにより生産できる。自然の仕組みを生かした地産地消のリサイクルループの構築に取り組んでいます」と事業の意義を語っている。
ムスカの技術の優位性は、1500世代以上の選別交配を経てたどり着いたスーパーイエバエにある。そのルーツは旧ソビエト連邦で行われていた研究であり、宮崎でバイオテクノロジー事業を実施していた串間社長の恩師ともいえる小林一年氏が導入。その後を継いだ串間代表が20年以上にわたって育成に取り組んできた。昆虫は生き物であり、繁殖施設の大型化やシステム化は一朝一夕にできることではない。 「ムスカの前身も含め国内では20年以上、旧ソ連からであれば50年近くにわたって選別交配してきました。今では、成長が早く繁殖能力の高いイエバエが安定して飼育できるようになりました。サラブレッドともいえるこのイエバエと、50年に及ぶデータの蓄積が我々の財産であり優位性です」
100年後の食のインフラを支えたい
生産される肥料や飼料の高い効能も確認されている。「肥料も飼料も食に関わるものなので、原料となる有機性廃棄物の成分にも気を配っています。また、生産された肥飼料には様々な分析を行っており、肥料取締法や飼料安全法をはじめ海外の厳しい基準も満たす安全性を確保しています」と品質面にもこだわったリサイクルシステムとしている。
さらに、安全性だけでなく品質面についても「肥料については宮崎大学との共同研究で、抗菌性による病気の抑制効果のほか、土壌改良作用などによる作物の成長増進や糖度上昇なども確認されています。また、飼料についても愛媛大学との共同研究によりマダイの養殖における成長促進や免疫力向上などを検証しています」とその優位性や機能性が示されている。
今後の展開について串間代表は「我々の事業は短期間で急速に売り上げが伸びるというものではなく、長期的な計画のもとで地道に少しずつ成長していくものなので時間がかかりますが、長期間にわたって農業、畜産業などの一次産業や環境改善に大きく貢献することができます。大げさに聞こえるかもしれませんが、100年後の食のインフラを支える技術だと思っているので、イエバエの量産化やプラント整備など、事業化の準備を着実に進めていきます」と展望する。
また、「ほかの技術と組み合わせることで、より大きな成果を生むことができると考えています。再生可能エネルギーやAI、DXなど様々な技術と組み合わせることで、より幅広い展開も可能になります。官民含めて多くの関係者と連携しながら、コストダウンも可能な安全・安心なリサイクル事業を広めていきたいですね」とアライアンスによる可能性も示唆している。
昆虫を活用したムスカの自然のリサイクルシステムが、日本の食と環境を変えていくかもしれない。