持続可能なまちづくりの進め方<後編>
早稲田大学大学院環境・エネルギー研究科 小野田 弘士 教授
スマートコミュニティは持続可能なまちづくりを進めていくための一つの手法であり、再生可能エネルギーをはじめとする最新技術はそのツールに過ぎない——と小野田弘士教授は語る。多くの地域で進められているプロジェクトを実現に導くために何が不足しているのか。実効性ある持続可能なまちづくりの進め方について、小野田教授に聞いた。
まちづくりにおける”モチベーション”の明確化を
政府の進めるSDGs未来都市には100を超える自治体が選定されており、各地で持続可能な次世代まちづくりが計画されている。しかし、当初の構想を実現している例は多くない。実現が難しい要因について小野田教授は、「本庄プロジェクトのように(※前編参照)、既存の市街地をそのまま活用するブラウンフィールド型では制限が多いということもあります。また、再生可能エネルギーなど個別技術の導入の議論に終始してしまい、本来の目的にたどり着かないというケースも散見されます」と指摘する。
本来の目的を維持し続けるために必要なこととは。小野田教授は「地域の資源や特性を最大限に生かすことで、地域におけるビジネスの活性化や持続可能社会の構築を図るための一つの手法がスマートコミュニティであり、その完成形は地域ごとに、また目指す方向性によっても変わってきます。そして、地域の資源や特性を最大限に生かすために、まずは地域のことをよく“知る”必要があります。
地域を知ることで、“まちづくり”のモチベーションが明確になります。地域の特徴や抱えている課題、地元企業や特産品などの資源、守るべき伝統や文化、そしてどのような住民が生活しているのかなどを知り、それ最大限に生かすための道筋を組み立てる。これこそが“まちづくり”のモチベーションであり、目的になります。再生可能エネルギーやAI、DXといったテクノロジーはあくまでツールに過ぎません。その地域で求められていることは何なのか、それを解決して地域の魅力を高めていくためにはどのような取り組みが必要か。そうしたプロジェクトを進めるためのモチベーションをベースに、ロードマップを作成していきます。プロジェクトが停滞してきたときには、これらを整理してもう一度関係者で共有するというプロセスも有効だと思います」と示唆する。
小野田教授が参画する『本庄スマートエネルギータウンプロジェクト』においては、災害が少ないという本庄市の特徴を進化させた、エネルギーの安全保障のための“まちづくり”がモチベーションとなった。地震や台風の少ない本庄市だからこそ、自立・分散型エネルギーシステムにより系統電源に頼らない安定的なエネルギーを確保できるという計画だ。 また、新幹線や高速道路などによる交通の利便性と豊富な自然、さらに歴史的価値のある観光資源を併せ持つという地域の魅力や、早稲田大学やその付属高校なども立地する新たな学研都市としての可能性、さらに県内有数の農産物の生産地として食と水に恵まれた地であり、地産地消の推進も可能といった多くのポテンシャルを有しており、エネルギーだけでなく様々な派生プロジェクトが生まれている。本庄プロジェクトのスタートから約10年が経ったが、モチベーションは消えず、確かな歩みを進めている。
“地域の心に響く”取り組みへ
モチベーション把握の次には、それらを解決するための仕組みの構築やテクノロジーの導入が必要となる。これらは様々な分野にわたることが多いことから、産学官など多様な主体が参画するコンソーシアムが形成されることも多い。
「次世代型の“まちづくり”はモチベーションつまり地域のニーズなどに基づいて計画されますが、参画団体にはそれぞれの目的や想定するメリットがあります。プロジェクトを成功に導くためにはそれぞれのニーズや役割などをうまく調整し、双方のギャップを埋め、地域と参画主体それぞれにメリットのある取り組みとしていくためのコーディネーターが必要となります。しかし、そうした役割を担う組織、人材が日本には不足しているように感じています」
実際に、名だたる企業や研究機関が参画するプロジェクトでも、コーディネーターが不在であるために主体間の連携が取れず、取り組みが停滞してしまうケースがある。
「本庄のプロジェクトでは企画段階から参加していたこともあり、私がコーディネーター役を担いました。大変な役割で十分に調整しきれない部分もありましたが、非常に良い経験になったと思います。そうした経験から得られたノウハウを学生にも伝えていき、コーディネーターを担える人材を育成していくことも“学”としての大学の重要な役割だと考えています」と教育者としての意欲も語っている。
また、関係者の調整という点では産学官だけでなく“民”の参画も必要と強調している。「“まちづくり”である以上、その地域の住民が納得して協働してくれる仕組みでなければ持続可能とは言えません。地域のくらしがどう変わっていくのか、そのために誰がどんな役割を担い、どのように取り組みを進めていくのか。そうしたロジックを整理して地域住民に“響く”取り組みとしていくことも大切なプロセスです。我々の研究室は多くのプロジェクトに参画していますが、”住民に響く取り組み”を変わらぬコンセプトとして取り組みを続けています」と語る。
数字で見えるメリットだけではなく、”地域の心に響く”まちづくり。持続可能な地域社会を構築するための手掛かりがここにある。